2004-06-24から1日間の記事一覧

帯正子「可愛い娘」

その名高い病院は、なんということもない明るい空の下にたっていた。まるで授業の終った校舎というかんじである。かっぽう着の掃除のおばさんが床をふいている。どうも、かっぽう着は同じところを、ゆっくりと拭いているだけのようだ。私は、待った。まだ同…

堺誠一郎 「曠野の記録」

見渡すかぎり陰鬱な空と、はてしなくつづいている大地――。輸送列車から降ろされた場所は、銃声一つ聞えぬ雪野原であった。お前らの当面の敵は寒さだって、軍医殿がいっていた。しかし退屈でしょうがねえ。訓練だけの日々は士気を低下させていった。せめてソ…