大阪行きの急行の食堂車で、私の前の空席に、上品な格好をした老夫婦が腰をおろした。細君が取り出したのは、おやと思う程大きな人形だった。背広を着、ネクタイをしめているが、しかし顔の方は垢染みてテラテラしており、眼元もどんより濁っていた。妻はは…
中原は生活に密着した詩を書き、悲しみの救いを悔恨のうちに求め、告白した。しかし告白は、新たな悲しみを作り出す事に他ならなかった。自分の告白に閉じ込められ、出口を見付けることが出来ずにいた。それは彼の誠実のためだ――。現代の随想 5 小林秀雄集作…
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