牧野信一「酒盗人」

 連日連夜の飲み会により、とうとう酒樽が空になった。酒の主・音無家からもらってくるさ!と僕は気軽に請合うが、どうやらもう貸しは作れないらしい。せっかくみんなで貯めた金銭も、立て替え代金以上にはならないようだ。音無の奴め。・・・よし、攻め入ろう。奴らの倉から、酒を奪うために!

酒盗人

酒盗人

 はっきりいって単なる強盗ですが、無駄なハイテンションさとノー天気さに、善悪の判断が見失われる作品です。酒を奪う場面は時代劇のシーンのようで、妙に格好いいのです。最初から最後までテンションが高いのですが、改めて全体を見直したくなる仕掛けもチラリと置いてあります。
 主人公は楽天的でいつも「僕に任せろ!」と言うのですが、しかし、何も知らない世間知らずのお坊ちゃんです。そのことに気づかない彼の呑気さと、彼の顔を立てようとする村人の優しさに目がいきました。