大岡昇平「捉まるまで」
マラリアを発病し、アメリカ軍から逃げるうち、私の心は生死の間を行き来していた。情報は錯綜するが私はとうとう動けなくなり、一人で腰をおろし、仲間とはぐれた。敵の存在など既に意識の外にある。水筒は空になり、生い茂る雑草の中で横になった・・・すると、その時、目の前に全く無防備の姿で、一人の若い米兵が現れた。私は銃の安全装置を外した。だが。
- 作者: 大岡昇平
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1967/08/14
- メディア: 文庫
- 購入: 2人 クリック: 19回
- この商品を含むブログ (41件) を見る
戦争心理についての多くの心理分析がありますが(たとえば、『「人を殺したくない」という気持ちは「自分が殺されたくない」の裏返しに過ぎない』)、これはオリバー・ストーン監督の「ベトナムもの」でもたびたび描かれ、そして、現在も続く問題であるように思いました。
「わかったよ。もうたくさんだ。わかったよ」(略)
「わかったよ」とは「どうせおれはここで死ぬことにきめたんじゃないか。思ったより歩けたからここまでついて来たものの、どうせ皆と一しょには行けないんだ。わかったよ」という意味である。