安部公房「魔法のチョーク」

 貧しい画家のアルゴン君は、今朝から何も食べていない。ふとポケットに入れた指先は、赤い棒切れにぶつかった。描いたものが全部実物となって、壁から転がり出てくる魔法のチョーク。食べ物の絵をたくさん描いて、信じられない幸福!けれども、気がついた。生き物でさえ描いてしまえることに。うかつに描くことは許されない。アルゴン君は「世界」を描くため、考えに考えた。


 展開も楽しく、読みやすい、童話風のお話。安部公房を最初に読むならコレ!と、万人にオススメしたい作品です。
 何でも望みがかなう魔法のチョークを持ったとき、人は何を描くでしょうか。とりあえず(人間ですから)自分の目の前の望みをかなえるでしょうが、さて、その後は?
 欲望を満たそうとする行為は、誰かの運命を変えるかもしれないことに、よくぞ気づいたアルゴン君だったのですが・・・。反戦の思いもこめられた話です。