安岡章太郎「陰気な愉しみ」
私には何か欠陥があるのかもしれない。軍隊生活でもまったく昇格できず、そのあげく背中に受けた傷がもとで病気になり、今は横浜市から金をもらって生活している。私はいつも役所へ着いたとたんに「健康人になってしまわないだろうか?」という不安に襲われる。だが、私は行きたいから行くのである。自分の体を屈辱でいっぱいにするためである。これは陰気な愉しみである。
- 作者: 安岡章太郎
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1966/07/22
- メディア: 文庫
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そのため私は、いやだ、不安だ、と云いながら実は、その日のくるのを待ちどおしいほど待っている。これは陰気な愉しみである。