大江健三郎「飼育」

 夕焼が色あせてしまった頃、村に犬と大人たちと、墜落した敵機に乗っていた《獲物》の黒い大男が帰ってきたのだ。「この村で飼う?あいつを動物みたいに飼う?」以来、子供たちは疫病に侵されて、生活は黒人兵で満たされた。大人たちは通常の仕事に戻り、黒人兵は子供たちだけのものになる。あの遠く輝かしい夏の午後、僕等は少しずつ黒人兵に近づいていった・・・。

死者の奢り・飼育 (新潮文庫)

死者の奢り・飼育 (新潮文庫)

 たくさんの輝かしい場面を伴った、魅力たっぷりの名作。芳醇な香り漂う描写に支えられた、とても印象的かつ深みをもった小説です。大江健三郎の小説は近作になればなるほど難解さを増しますが、初期作品群(青春小説)は読み進めやすいという意味では抜群です。そして、そのいずれもが面白い。中でもこれ。
 空から突然降ってきた黒人兵を「飼育」する村人。黒人兵は、初めから人間として扱われていません。詰め込まれた情報を持つ大人にとって黒人兵は敵でしかないためですが、それらのことに縛られない自由な子供たちは、好奇心たっぷりにその「物」に近づいていきます。
 黒人兵は「家畜」として「人間」として子供達に様々な影響を与えますが、凝り固まった大人たちは彼から何も得ることがなかった模様です。そして、この話のあと「僕」は何を失い、何を得たのか。
飼育 [DVD]

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