中島敦「巡査の居る風景」

 敷石には凍った猫の死骸が牡蠣のようにへばりついた。その上を赤い甘栗屋の広告が風に千切れて狂いながら走った――。1923年の冬、すべてが汚いまま凍りついていた。趙教英巡査は寒そうに鼻をすすっては首を縮め、街を歩いていた。彼は支配者である日本という国、朝鮮という国、そして自分について考えてみた。ある事件を処理した後、彼はそれらをさらに突き詰めて考えることになる。

中島敦全集 (第2巻)

中島敦全集 (第2巻)

 道の真ん中を歩く「日本人」の影を行きながら、民族としての宿命を感じていた趙巡査の日常です。物憂げで幻想的な町の雰囲気も相まって、情緒的な作品になっています。冒頭のセンテンスはその極めつき。より町全体にスポットを当てた「南京の提督」(芥川龍之介)、そんな雰囲気を感じました。