石川淳「雪のイブ」

 売春婦と泥棒の喧嘩の仲裁に立ち上がった靴磨きの女はなまめかしく、男はついと誘い出す。入った先は西銀座の酒場、酔った女は自然に立膝の姿勢をとり、ズボンの破れ目から白くはだかの肉を光らせる。「行こうよ、ね」。ふりしきる雪は「善悪を知るの樹」もおおってしまい、羞恥も怖れも見定めがたく、そのとき、女はほとんど素はだかになる。

黄金伝説・雪のイヴ (講談社文芸文庫)

黄金伝説・雪のイヴ (講談社文芸文庫)

 ありふれた日常の1コマを描きながら、作者の妙技はいつしか読者を「現実」から「夢(未来?)」へといざなっていきます。途中、ストーリーの流れを無視した挿話が入るのですが、それはその場所にしか入りえないのだろうな、と読後に抱くものでした。舞台転換のテンポも良く、キザでセクシーな独特の世界。流れるようなストーリーに酔えてクール。

 「墨がついてるぞ。」
 「どこに…嘗めてよ。」
 「そっとしておけ。狐の化けそこない、靴みがきがじつはO・Kの、尻尾が出ていておもしろい。」