遠藤周作「四十歳の男」

 二度の手術が失敗し、三度目の手術に踏み切らなくてはならなくなった。三年に及ぶ能瀬の入院費は家計をひどく圧迫している。高価な九官鳥を買えというのは、思いやりのない注文にちがいない。しかし能瀬は今、どうしてもあの鳥がほしい。能瀬は神父にすら言えない秘密を持っていた。人生の最後が近づく瞬間に、九官鳥にたいして「あのこと」を懺悔する・・・。


 肉体的な痛みには慣れた能瀬ですが、精神的な痛みは最後まで癒されずにいました。本来ならば妻にすべき告白ですが、それすら許されなかった能瀬は、神としての九官鳥に到達しました。ただ、それは単に受け入れるのみの動物ではない点が、小説にユニークな仕掛けをほどこします。



 彼がわざわざ人語をしゃべる九官鳥を妻に買わせたとき、意識の底には言いたいことを言うことへの切願があったのだろう。(略)九官鳥というユーモラスな小道具が、この小説の息苦しさの救いとなっていて、成功した短編小説である。(山本健吉