石川淳「焼跡のイエス」
炎天下の雑踏の中、汚らしくみすぼらしい少年があらわれた。顔中膿にまみれ、服と肌のけじめなく、悪臭を放ったひどい生きものである。すると近くをあるくひとのむれを、いきなり恐怖の感情がおそったようだ。だが、少年はひとり涼しそうに遠くを見つめ、まるで人間どもが右往左往としてる中に、一人権威を携えて自ら決めた道を歩いている人間のように思われた。
- 作者: 石川淳
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
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混乱の世にあっては、イエスもまた他人のパンを奪うにちがいない。そして、誰にも邪魔されずパンを奪うことができるゆえに、かれは神の子キリストなのである。(松本健一「ドストエフスキイと日本人」)
- 作者: 石川淳
- 出版社/メーカー: 新潮社
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