野間宏「暗い絵」
どうしてブリューゲルの絵にはこんなにも悩みと痛みと疼きを感じ、それらによってのみ存在を主張しているかのような黒い穴が開いているのだろう・・・。見まいと思ってもこの絵が持つ不思議な力は、彼らに彼ら自身の苦しみと呻きを思い起こさせていた。永杉英作、羽山純一、木山省吾。自己嫌悪と口論と傲慢との混合した大学時代を、共に学び、共に遊び、共に苦しんだ人々である。
- 作者: 野間宏
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1989/04
- メディア: 文庫
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彼は、美術愛好者のように絵画に関する深い知識や造詣のある人間ではない。絵の流派やその伝統や歴史に通じているのでもない。彼はただ自分の心の中に魂のようにして在る苦しみが、ブリューゲルの絵のもつ、暗い痛みや呻きや嘆きに衝き上げられるのを感じたのである。