野間宏

野間宏「顔の中の赤い月」

戦争で生きる支えを失った男・北山年夫と、女・堀川倉子の出会い。彼らの関係の発展をジャマするのは、北山が戦場でつかんだ『自分のことは自分で解決するしかない』という戦場での哲学だった・・・。過去を清算しきれない段階での新たな出会いは、とうとう…

野間宏「暗い絵」

どうしてブリューゲルの絵にはこんなにも悩みと痛みと疼きを感じ、それらによってのみ存在を主張しているかのような黒い穴が開いているのだろう・・・。見まいと思ってもこの絵が持つ不思議な力は、彼らに彼ら自身の苦しみと呻きを思い起こさせていた。永杉…

野間宏「第三十六号」

刑務所内で私は、第三十六号という番号の男と親しくなった。彼は溜息のつき方(それは独房に奏でられる唯一の音楽であった)や、点呼の返事の仕方などで刑務所慣れした人間を感じさせた。しかし、それが他人を意識したポーズであることは明らかだった。私は…