野間宏「顔の中の赤い月」

 戦争で生きる支えを失った男・北山年夫と、女・堀川倉子の出会い。彼らの関係の発展をジャマするのは、北山が戦場でつかんだ『自分のことは自分で解決するしかない』という戦場での哲学だった・・・。過去を清算しきれない段階での新たな出会いは、とうとう赤い月を呼ぶ。

暗い絵・顔の中の赤い月 (講談社文芸文庫)

暗い絵・顔の中の赤い月 (講談社文芸文庫)

 孤独からの社会復帰。事件・事故で得たショックからの新生。被害者グループによる相互ケアはむろん大切ですが、最終的な自立のためには自分自身で立ち上がるしかないのでしょう。これは宮部みゆき作「模倣犯」などでも描かれているように、この世に悲しみがある限り、永遠普遍のテーマではないでしょうか。ラストは短文の連続がリアルタイムな感覚を呼び、とても格好よく、ドラマのような場面となりました。

 人間が、一人の人間を幸福にするということは大変なことですよ。僕はまだ一人としてそんな人間に会ったことはありませんからね。もちろん、僕にはできなかった。