石川淳「喜寿童女」

 江戸下谷敷数奇屋町にいた名妓・花は、幼い頃から精気さかんで、生涯に男を知ること千人を越えた。それが天保四年癸巳三月一日、花女七十七歳の喜寿の賀宴のさなか、とつじょ行方知れずになった。そして花女は胡兆新伝来の甘菊の秘法により、老女変じて童女となり、将軍家斉に献上されたのである。

影・裸婦変相・喜寿童女 (講談社文芸文庫)

影・裸婦変相・喜寿童女 (講談社文芸文庫)

 推理小説的興味を持たせて、最後まで読者の興味を引っ張り続ける実録(?)歴史検証物の怪作です。こういった皮肉で軽快で色気のある作品を書かせたら、石川淳は本当にうまい。
 激動の時代に、意外の連続のストーリー。天下の将軍がそんなことを?伊藤博文のカバンの中にそんなものが?(実際、伊藤博文の女性関係は大変なことだったとか) まさか、けれども、これだけ証拠を挙げられると、もしや、いや、と逡巡するさなかに、ふと作者の方を見ると、そこには・・・ああ、最後の最後まで見事です。