梅崎春生「贋の季節」

 借金を踏み倒して夜逃げしてきたサーカス団は、この町でも悲惨な客入りが続いていた。そんなとき、私は「お爺さん」を舞台に出したらどうだろうか、と提案したのである。それは何の芸もなく、ただ叫んで逃げようとするだけの老猿である。ところがサーカス団には、猿の物まねを売りにしている三五郎がいた。プライド高い芸人魂を持つ三五郎は、私に喰ってかかってくる。


 この作品の不明確なユーモアの底にただよう暗さと諦めに、どのあたりで気づくかにより感じが違ってくる作品です。汗をかくピエロの姿に滑稽よりも悲哀を感じるならば、それは必然かと。
 現状に対する諦めと先行きに対する不安。存在が失われそうになったとき、戦う姿勢を見せますが、相手は猿。これは辛い。ズブズブとした沼の上に敷いた絨毯を、無理に笑顔を作って歩いてみせているような・・・かなり辛めのペーソス。

 「俺にはお客の気持が判らなくなってしまった。昔の客はそんなものじゃなかった。もし今の客が猿の物真似なぞを喜ぶんなら、俺はそうやるより仕方がないのさ。」