三島由紀夫「雨のなかの噴水」

 彼はその言葉をいうために少女を愛したふりをしてきたのだ。男のなかの男だけが、口にすることが出来る言葉。世界中でもっとも英雄的な、もっとも光輝く言葉。すなわち――「別れよう!」 不明瞭に言ってしまったことが心残りだったが、雅子の涙を見て、とうとう大人の仲間入りを果たしたことを知った!・・・それにしても、その涙があんまり永くつづくので、少年は周囲が気になり出した。

戦後短篇小説再発見1 青春の光と影 (講談社文芸文庫)

戦後短篇小説再発見1 青春の光と影 (講談社文芸文庫)

 都会のまんなかで行われる、少年少女の別れの一コマ。変なことで「大人ぶり」たがる少年と、しくしく泣くばかりの普通の少女。この少女は小説内でほとんど喋らないのですが、雨の日の噴水がターニングポイント、最後の最後に小気味いい言葉が発せられます。さくさくと読める作品です。