壇一雄「終りの火」
妻・リツ子は昏々と眠っている。リツ子のお腹は生気も弾力も失い、死火山のようにげっそりと陥ちている。舌と唇の亀裂はひどく、微塵のひびに犯されている。知覚も何もなくなっているにちがいない。足は足とは思えず、巨大なキノコの類に思われた。父は息子・太郎と話す。太郎は大きくなってから「チチになり、御飯タキタキする」という。太郎は笑う。父は涙する。
- 作者: 檀一雄
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2003/09/11
- メディア: 文庫
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ここではもうすべて人の世のモラルや掟は意味がない。ただひたすら人のいのちの温かさをほのぼのと感じさせるものがあるだけだ。疑いもなくわが戦後文学の最大傑作の一つである。(河上徹太郎)