壇一雄

壇一雄「降ってきたドン・キホーテ」

一月元旦。変り映えのしない年賀状の中に一通、馬鹿デカイ封筒が混じっていた。これこそは誰あろう、ラ・マンチャの騎士ドン・キホーテ氏からのものだった!どこかの大統領が会見を申し込んできたのとはわけが違う。偉大なる騎士をどのように迎えるか、浴び…

壇一雄「終りの火」

妻・リツ子は昏々と眠っている。リツ子のお腹は生気も弾力も失い、死火山のようにげっそりと陥ちている。舌と唇の亀裂はひどく、微塵のひびに犯されている。知覚も何もなくなっているにちがいない。足は足とは思えず、巨大なキノコの類に思われた。父は息子…

壇一雄「母」

父の奮闘のおかげで私には四人の母がいる。その他に、母だかなんだか分からない人もいるのだが、どうでもよい。どの母も父にさんざん殴られていたが、私は、だいたいにおいて満ち足りていた。幸福というやつを信用もしなければ当てにもしない、そして、いつ…