石川淳「紫苑物語」

 あくる日の狩、国の守である宗頼はおなじほどの年ごろの平太とあった。やつに守の命はつうじず、すさまじい気迫に圧せられ、宗頼ははずかしめを、いや、のろいを受けた。宗頼はふもとから山上を振り返り、敵の背をにらむ・・・。宗頼は民を殺しては、そのあとに紫苑の草を植えさせる。わしは殺すことを好む。そしてやつめのつらの皮を、この手で剥いでくれよう・・・。

紫苑物語 (講談社文芸文庫)

紫苑物語 (講談社文芸文庫)

 石川淳の烈しい気迫が全ての文章にこめられており、圧倒的な存在感をもった傑作です。
 宗頼の矢は「言」→「体」→「命」→「魂」→「?」へと放たれつづけ、ついに善悪を分ける谷をのぼり、平太の存在にたどりつきます。世界を紫苑にそめた宗頼ですが、平太の正体にはなかなか気づきません。彼らの先にあるのは血、そして・・・。
 流される罪なき血と引き換えに、次々と植えられていく紫苑。その花言葉は「君を忘れず」だとか。