2004-11-19から1日間の記事一覧

大江健三郎「ブラジル風のポルトガル語」

ぼくと森林監視員とは、五十人近い村人が集団失踪した部落を訪れた。彼らの失踪に思い当たる理由はない。発狂でもなければ、税金に苦しめられたのでもない。――変わり映えのしない現状からの脱出に理由はあるのか、いや、理由なんているのだろうか?空の怪物…

石川淳「ゆう女始末」

ゆう二十六歳は日本橋のど真ん中に住み込んでいるくせに、寄席にも芝居にも興味がなく、見るのも聞くのも政治小説に政治欄。袖ひく男も寄りつきにくく、ゆうは鏡と相談した。ところが明治二十四年のくれ、ゆうの目には夢のうるおいが見えた。――ニコラス様、…