大江健三郎「ブラジル風のポルトガル語」

 ぼくと森林監視員とは、五十人近い村人が集団失踪した部落を訪れた。彼らの失踪に思い当たる理由はない。発狂でもなければ、税金に苦しめられたのでもない。――変わり映えのしない現状からの脱出に理由はあるのか、いや、理由なんているのだろうか?

空の怪物アグイー (新潮文庫)

空の怪物アグイー (新潮文庫)

 このまま消えてしまいそうな現状を前にして、そこから抜け出そうとする理由が語られます。それはむろん一概には言えませんが、態度の根本に置くべきものはひとつしかない。小説の最後に作者なりの答えとして書かれていますが、全く同感するものです。
 なお、末端までの意思統一は出来ていないのに、それでも躊躇なく全員が同じ行動をとるという点はストライキのようで面白かったですが、団体交渉というのはそんなものなのでしょう。

 「もし、確たる理由があるのなら、おれはそれを知りたいよ。この村に大災厄がおこってわれわれがみな滅びてしまうという予言でもあったのだったら、おれたちも逃げなければなあ!」