梅崎春生「幻化」

 中年男の五郎は、精神病院から抜け出して飛行機に乗っていた。目的地は20年前、生命に対して自信があった頃に過ごした場所である。・・・だが、到着してみると、そこの風景は大きく変っていた。五郎の青春は病室で過ぎ去ったのだ。五郎は歩き出した。何のためにここにいるのか、何をしているのか分からなくなりながらも、五郎の活動は止まらない。彼は何を求めているのだ?

桜島・日の果て・幻化 (講談社文芸文庫)

桜島・日の果て・幻化 (講談社文芸文庫)

 第一次戦後派の中心選手・梅崎春生の遺作にして代表作。
 道中の果てに様々なものを見つけていくロードムービーならぬロードノベルですが、歩く道が一直線ではないように感じますし、その道の先が無限であるように感じます。どうにもならない不安や絶望が、郷愁を求めることで自分を見つけ・・・。
 この話から何を見つけるか、何を得るかは、人によって大きく異なるのではないでしょうか。年齢や経験や、生活に対する満足度などが、そのための変数となりそうであり、十年に一度読める小説です。
 運命を求める旅路には絵になる場面が多いのも特徴かと思いますが、特に、砂浜で踊る中年男+それを見つめる少年、このシーンは本当に素晴らしい。

 いったいおれは、何を得ようとしたのだろう?おれの青春をか?

 「おれは憐れまれたくないんだ」
 怒りのあまり、蒲団の襟にかみつきながら思った。
 「憐れむだけでなく、かまってもらいたくないんだ!」