大江健三郎「見るまえに跳べ」
ぼくは女に「若い人間は戦乱をくぐってこそ成長するさ」と気取っていたが、戦場行きの話をもちかけられたとき、うつむいたまま返事をすることが出来なかった。――おれは跳ばない。いつもそうだ。おれは卑劣だ。ぼくは一生跳ぶことはなく、平凡な職につくのだろう。ところが長い梅雨がすぎ、暑い夏がすぎ、秋の学期がはじまった頃、ぼくは青ざめた小さい顔をもつ田川裕子を知った。
- 作者: 大江健三郎
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1974/05/28
- メディア: 文庫
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主人公は、そんな自分を変えたいために、愛とはいえない独善的な行動を続けるのですが・・・果たして、どの程度跳ぶことが出来たのでしょうか?「田川裕子の電話」以後数十行の活発さが、とても良かったです。
Look if you like, but you will have to leap.(略)
「生活いっぱんさ、なにをやるにも見るまえに跳べということさ。(略)見ているやつと跳ぶやつと二種類ある。」
おれは現実の壁ぎわまで歩いて行くが、そこから尻尾をまいてひきかえす、いつもそうだ、とぼくは考えた。おれは見てばかりいる、決して跳ばない。おれは卑劣だ。