島尾敏雄「接触」

 私も含まれていたが、近くの席にいた七人は授業中にアンパンを食べた。それは規則で正しくないこととみなされ、その罰は死刑である。くつがえすことのできない校則第十九条に記された規則は、空気ほどの抵抗もなくみんなに受け入れられた。私たちは裁縫室に軟禁された。罰則があるならば、それは施行されなければならない。


 授業中にアンパンを食べたの刑によって死刑に処されようとする学生たち――!コメディのようなお膳立てですが、いたってシリアルな話です。あまりにも不条理な校則ですが、それを空気ほどの抵抗もなく受け入れる方も不気味。締め付けの強い規則と、それに従う人間の愚鈍さに眼が向けられています。
 夢の中の出来事を描いた作品でもありそうですが、主人公「私」によって語られる内容、様々なモチーフにより示される事柄は、極めて現実的な意味がこめられています。それは突き詰めると「自分と他者との関係」に行き着くようです。

 「もう、そのへんでいいじゃないか。決着をつけるなどと、そんなことまでして決着をつけなければならないことなど、どこにもあるものか」