2004-07-29から1日間の記事一覧

吉行淳之介「娼婦の部屋」

秋子は娼婦だった。その体と会話するとき、彼女のさまざまな言葉が私の体へと伝わってきた。この平衡は長くは続かず、いつしか私は彼女の不在をさびしがるようになった。私の下で秋子が既に疲れていることがあり、そのときの気持は、そのまま嫉妬につながっ…

坂口安吾「桜の森の満開の下」

桜の下には風もないのにゴウゴウと鳴っている気がしました。そこを歩くと魂が散り、いのちが衰えて行くようです。旅人がみんな狂ってしまう桜の森がある山には、むごたらしい山賊が住んでいました。美しい女房をさらってきましたが、男はなぜか不安でした。…

島尾敏雄「接触」

私も含まれていたが、近くの席にいた七人は授業中にアンパンを食べた。それは規則で正しくないこととみなされ、その罰は死刑である。くつがえすことのできない校則第十九条に記された規則は、空気ほどの抵抗もなくみんなに受け入れられた。私たちは裁縫室に…