坂口安吾「桜の森の満開の下」

 桜の下には風もないのにゴウゴウと鳴っている気がしました。そこを歩くと魂が散り、いのちが衰えて行くようです。旅人がみんな狂ってしまう桜の森がある山には、むごたらしい山賊が住んでいました。美しい女房をさらってきましたが、男はなぜか不安でした。それは女が美しすぎたためでしょうか。けれども男は追求しなかったため、女のいうなりに人を殺して首を集めるのでした。

桜の森の満開の下 (講談社文芸文庫)

桜の森の満開の下 (講談社文芸文庫)

 作者は普段の理屈っぽさを極力排除して、桜の花の美の中に、言葉にならないものの存在を浮き立たせています。読者の思惑にゆだねられるそれは、桜に尋常ではないものを認める人の心に直結することだろうと思います。舞台化、映画化(見ました)されており、坂口安吾の代表傑作と言われています。
桜の森の満開の下 [DVD]

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