深沢七郎「おくま嘘歌」

 おくまは数えどしなら64で、「ワシなんか、厄介者でごいすよ」とよその人には言うのだったが、腹のなかでは(まだまだ、そんねに)と思っているのだった。おくまは葱も茄子もダイコンもトマトもジャガ芋もいんげん豆も作っているうえに、鶏を30羽も飼っているのである。よその人に褒められたときは「ぜんぜんダメでごいすよ」とおくまは言うが、まんざらでもないのだった。


 独特のテンポをもったゆったりとした文体は、主人公「おくま」の人生の歩みをそのまま伝えます。彼女の性格が溢れ出ていて、文章を眺めるだけでも微笑ましいのです。元気な・がんばる老人を描いた話のほのぼの・ひょうひょうとした様は、読者をとてもくつろいだ気分にさせてくれます。