織田作之助「鬼」

 流行作家の彼はいくら溜め込んでいるかと軽蔑されていたが、私のところに金の相談に来た。「何を買っているんだ?」「煙草だ。一日7,80本は確実で、100本を超える日もある」。減らせと言っても、けちけち吸うと気がつまり、仕事に影響が出るのだという――全ては仕事のためなのだ。彼は仕事以外のことは何も考えず、何一つしたがらない。ようは仕事の鬼なのである。

聴雨・蛍―織田作之助短篇集 (ちくま文庫)

聴雨・蛍―織田作之助短篇集 (ちくま文庫)

 仕事にかける情熱は人一倍ですが、仕事以外のことにかけないズボラさも人一倍の「仕事の鬼」。煙草好きとして知られた作者・織田作之助自身についての、自虐のこもった作品です。
 こういう頑固な人物が社会生活をうまく送っていくためには、周囲の人間の理解が必須です。打ち込みたいだけ打ち込める環境さえあればいい。黙っていても最良の仕事はするんだし、変に気を使うことなく放っておくのが一番なのです。
 これ、本当に。ね、放っておいてくださいよ。