坂口安吾「街はふるさと」
悪人の利己主義者、金銭至上の合理主義者、センチな貧乏者、決断出来ない子供、達観した神様、娼婦、ギャング。京都と東京をまたにかけ、彼らは動く。ある者は運命に流され、ある者は逆らって生きている。無だと言われ、蔑まれ、それでも男は「生き抜く」と決意する。――人間の生き様を突き放すようでいて、その実、もっとも愛している。
- 作者: 坂口安吾
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 1991/01
- メディア: 文庫
- クリック: 2回
- この商品を含むブログ (6件) を見る
人生は絶望ばかりで、そこに気づかない人間の方が幸せさ、あえてその暗さを探しに出かける必要はないじゃないか、それでも真実を見たいなら、覚悟が必要だよ、もしかしたら、永遠に孤独な道かもしれないよ、それでもいいのかい、といった言葉が続くような決意・・・。
善行を尽くして微笑を浮かべたまま死んだ人間を尊重しつつ、「死んだら負けさ、だから生き延びてやるよ」と言わせ、自殺した人間には「甘えてやがら」と苦りきります。つまりは、強く生きることであり、坂口安吾が勝ち得た死生観がよく出た作品だと思いました。ラストシーンは登場人物の姿勢とは裏腹に、作者の孤独を感じ、とても淋しいものがあります。
「ぼくは、こう思うよ。英雄、帝王のAクラスにも貧乏性はあるもんだよ。秀吉だの、ヒットラーでも、そう見えないかね。そして、誰だって、そうじゃないかね。それに気がつくと、みんなそうなのさ。知らない奴が一番幸福なんだ。だから幸福なんてものは願う必要がないし、それにも拘らず、知らない奴はたしかに幸福に相違ないよ」
そして、記代子に云った。
「お前さんは進んで不幸を愛すな。苦しいことには背中をむけなよ。そうこうするうちに、なんとか、ならア」