坂口安吾「街はふるさと」

 悪人の利己主義者、金銭至上の合理主義者、センチな貧乏者、決断出来ない子供、達観した神様、娼婦、ギャング。京都と東京をまたにかけ、彼らは動く。ある者は運命に流され、ある者は逆らって生きている。無だと言われ、蔑まれ、それでも男は「生き抜く」と決意する。――人間の生き様を突き放すようでいて、その実、もっとも愛している。

坂口安吾全集〈8〉 (ちくま文庫)

坂口安吾全集〈8〉 (ちくま文庫)

 前半は物語の軸が分かりづらくて、はっきり言って行き詰まりますが、思い切って推理小説的展開を挿入した後半は進路が定まり、結末までまっしぐらに転落していきます。
 人生は絶望ばかりで、そこに気づかない人間の方が幸せさ、あえてその暗さを探しに出かける必要はないじゃないか、それでも真実を見たいなら、覚悟が必要だよ、もしかしたら、永遠に孤独な道かもしれないよ、それでもいいのかい、といった言葉が続くような決意・・・。
 善行を尽くして微笑を浮かべたまま死んだ人間を尊重しつつ、「死んだら負けさ、だから生き延びてやるよ」と言わせ、自殺した人間には「甘えてやがら」と苦りきります。つまりは、強く生きることであり、坂口安吾が勝ち得た死生観がよく出た作品だと思いました。ラストシーンは登場人物の姿勢とは裏腹に、作者の孤独を感じ、とても淋しいものがあります。

 「ぼくは、こう思うよ。英雄、帝王のAクラスにも貧乏性はあるもんだよ。秀吉だの、ヒットラーでも、そう見えないかね。そして、誰だって、そうじゃないかね。それに気がつくと、みんなそうなのさ。知らない奴が一番幸福なんだ。だから幸福なんてものは願う必要がないし、それにも拘らず、知らない奴はたしかに幸福に相違ないよ」
 そして、記代子に云った。
 「お前さんは進んで不幸を愛すな。苦しいことには背中をむけなよ。そうこうするうちに、なんとか、ならア」