織田作之助「訪問客」

 タバコがなければ一行も書けない十吉のために、君代は今日も煙草を持ってきてくれる。ところが、十吉は女房気取りな君代がうとましい。周囲は「あの娘さんを貰ってあげたらどうです」というが、十吉は煙草を吹かしながら、君代のような女を女房にするのは、紅茶の煙草を吸うようなものだと思っている。しかし、いよいよ不自由すれば、紅茶でも吸わなければいけないのだろうか?


 物資が不足した時期と、軍の貯蔵物資が民間に流れて一日一日価格が安くなっていく時期。これはわずか数ヶ月の変動なのですが、「時期」というよりも、まるで「時代」です。そんな時代にうまく乗った人間と、乗り遅れた人間と、初めから乗る気のない人間とが描かれます。そして結果は残酷に分けられてしまいます。そう、勝ち組と負け組に・・・。