2005-12-13から1日間の記事一覧

織田作之助「鬼」

流行作家の彼はいくら溜め込んでいるかと軽蔑されていたが、私のところに金の相談に来た。「何を買っているんだ?」「煙草だ。一日7,80本は確実で、100本を超える日もある」。減らせと言っても、けちけち吸うと気がつまり、仕事に影響が出るのだという――全…

太宰治「満願」

これは、いまから、四年まえの話である。私が伊豆で一夏を暮し、ロマネスクという小説を書いていたころの話である。泥酔して怪我をした私を治療しに現れた、泥酔したお医者さん。おかしさに笑いあった二人は以来仲良しになったのである。お医者さんのお宅に…

織田作之助「アド・バルーン」

七つの年までざっと数えて六度か七度、預けられた里をまるで付箋つきの葉書みたいに移って来たことだけはたしかで、放浪のならわしはその時もう幼い私の体にしみついていたと言えましょう。だから私は、大阪から東京への道を、徒歩で歩くことを考えついたの…