安部公房「砂の女」

 昆虫採集にきた男が一晩の宿としてあてがわれたのは、砂の崖に囲まれた家。そこには年若い女が一人住んでいた。家に降り積もる砂、食事のときには傘がいり、ふとんはますますしめっぽい。女もさっさとこんな家を出ればいいのに・・・流動し続ける1/8mmの砂の波・・・。翌朝、あるはずの場所から縄梯子が消えていて、男は囚われた。

砂の女 (新潮文庫)

砂の女 (新潮文庫)

 他人から得た情報をもとに生きてきた常識的な男が、蟻地獄に陥ってしまいました。男はこれまで培った全ての知恵を結集し、命がけの脱出を試みます。けれどもそこは、常識や社会通念の通じない場所・・・。閉鎖空間における人間の存在、徒労、絶望、そして、反権力の意志。サスペンスフルな展開で読ませる名作です。後発ですが映画「パピヨン」を思い出しました。

 互いに傷口を舐め合うのもいいだろう。しかし、永久になおらない傷を、永久に舐めあっていたら、しまいに舌が磨滅してしまいはしないだろうか?