2004-05-01から1ヶ月間の記事一覧

島尾敏雄「徳之島航海記」

出撃の指令を待つ日の下で、私は体をこわばらせていた。私は飛行機からの爆撃を恐れていた。だがそれを人に言うことは出来なかった。私は部隊長だったからである。そう、私は臆病なのである。部隊長として常に注目をあび、全ての行動に責任が要求されるが、…

辻亮一「異邦人」

彼――丘上博は、木枯国共産党の軍付属病院に勤務することになった。博は前年に妻を亡くしてから、生きていくことにさえ執着しなくなっていた。そこで博は誰もが嫌がる重労働を進んでこなしていった。さまざまな問題も、博が被ることで解決する。仲間の気分が…

尾崎翠「歩行」

夕方、私は幸田当八氏のおもかげを忘れるために歩いていた。医者である幸田氏の研究は、戯曲のなかの恋のせりふを朗読させ、そのときの人間心理の奥ふかいところを究めることにあったのであろう。そのために私がモデルになったのである。幸田氏が滞在してい…