林芙美子「晩菊」

 老女・きんの元へ、かつて愛した男・田部が訪ねてくることになった。「別れたあの時よりも若やいでいなければならない」――。自分の老いを感じさせては敗北である。たっぷりと時間をかけて、念入りに身支度を整える。わずかな期待を抱きつつ・・・。

晩菊・水仙・白鷺 (講談社文芸文庫)

晩菊・水仙・白鷺 (講談社文芸文庫)

 かつての「男」に会うために、丹念に丹念に身支度する老女・きん。その身支度の様子が数ページに渡って描かれるのですが、それはまるで出陣する武士のようです。老いと戦いつつも若さを求め、男を求める老女の姿は、強さよりやロマンチックさよりも、滑稽、そして、切なさを思わせます。
 後半は、語り部の視点に変化が生じ、楽器が1つ加わった曲と同様、様々な含みが生じてきます。緊張感と迫力がぐんぐんと高まり、そして、最後まで興味は持続されます。