武田泰淳「「愛」のかたち」

 肉体に異常な欠陥を持ちコンプレックスに悩む町子は、生活を保障してくれる夫と、1人の女として遇してくれる光雄との間であぶない橋を渡っていた。ところが光雄という男は人間性を持っておらず、感情ではなくテクニックだけで生活する男であったのだ。それでも町子は光雄といつか結婚すると信じていた。だが、町子の自信は光雄から恋愛の引力を奪ってしまったようで・・・。

蝮のすえ・「愛」のかたち (講談社文芸文庫)

蝮のすえ・「愛」のかたち (講談社文芸文庫)

 肉体の愛と精神の愛、さらにそれを健康と異常の2つにわけ、合計4パターンの「愛」のかたち。武田泰淳の他の作品と同様に明快な出口や結論は与えられないため、自分で考えなければなりません。主人公・光雄に対する印象が、どんどん変わっていくことに驚くと思います。作中作で描かれる異様な事件は極めつけです。

 「自分たちどうしでは、悪いことやってる気はないな。ただこれだけの事しているというだけで」

 「そりゃ、そうよ。わたしだって、好きなんだから、あなたもわたしが好きだからこうやってるだけですものね。だけど、やっぱり、これは悪いことなのよ」

 愛する者は愛のために苦しむことをも愛す