太宰治「ダス・ゲマイネ」

 佐野次郎こと私は、シューベルトに化け損ねた狐のような男である馬場と出会った。親しくなったとき、彼は一冊の本を出版しないか、と持ちかけてきた。そうして集まったのは、絢爛たる美貌と貧弱な体を持つ絵描きの佐竹、そして、作家の太宰治という男。

走れメロス (新潮文庫)

走れメロス (新潮文庫)

 太宰治の鋭敏な知性を感じさせるテクニカルな作品です。他の作品とは違う、独特の世界があります。
 この中に放り出されると、佐野、馬場、佐竹、太宰、彼ら4人に囲まれて、身動きが取れなくなってしまい、息苦しさを感じます。4人の姿は、いずれも作者・太宰治の分身だとか。国木田独歩「窮死」のような場面も。

 「僕は平凡なのだ。見せかけだけさ。僕のわるい癖でしてね。はじめて逢ったひとには、ちょっとこう、いっぷう変わっているように見せたくてたまらないのだ。」

 君、太宰ってのは、おそろしくいやな奴だぞ。(略) あいつの素顔は、眼も口も眉毛もないのっぺらぼうさ。眉毛を描いて眼鼻をくっつけ、そうして知らんふりをしていやがる。しかも君、それをあいつは芸にしている。ちぇっ!