石川淳「葦手」

 銀二郎と仙吉は女好みが似通っていて、妻や愛人をかかえながら妙子と梅子の元へ通う。わたしはわたしで美代との関係が誤解され、「鉄砲政」に命を狙われる――。わたしは高邁なるものを求めているのだが、この年月の所行は酒と女、ひとりで泣いたり笑ったりときている。その狂態を紙に記すなら、葦のすがたに模して文字を書き崩したという、昔の葦手書のたぐいであろう。

普賢・佳人 (講談社文芸文庫)

普賢・佳人 (講談社文芸文庫)

 べらんめえ調で語られる、男女数人が入り乱れての大恋模様。簡単に言うとそういうことですが、伝える語り部のテクニックが尋常ではありません。
 切り捨てて、はめ込んで、散り捨てて、そうした作業を眺めるうちに、ごちゃごちゃっとした人間関係が編まれています。読者はわけが分からなくなるところですが、その寸前でUターン。最後の数ページにおいて絡まった全ての糸が、無駄なくするするっ!と解けてしまいます。
 それはとても気分がいいもので、読後感は最高に格好いい。私が最初に読んだ石川淳作品であり、未だに私的石川淳ベストの1つ。
石川淳選集 第1巻 小説 1

石川淳選集 第1巻 小説 1