矢田津世子「茶粥の記」

 亡くなった良人は、雑誌に寄稿するほどの食通として有名で、味覚談義にはきりがなかった。聞き手たちは良人からまだ知らぬ味わいをいろいろ引き出しては、こっそりと空想の中で舌を楽しませる。しかし、良人は実際に食べたことはないのである。聞いた話や読んだものに想像の翼を与えるのである。「想像してたほうがよっぽど楽しいよ。どんなものでも食べられるしね」

 「味覚春秋」だの「栄養と家庭」だのといった雑誌も登場し、それに掲載された良人の文章ものっています。その文章、実は嘘ばっかりなのですが、とても美味しそう!そして、嘘ばっかり嘘ばっかり、と詰め寄る清子の姿。これらを外から見ると、つまりは、とっても仲良しなことが分かるのでした。
 その他にもクスクス笑えるポイントが多くて楽しめます。ユーモアにくるまれた思い出話のやわらかさとラストで得られる方向性に暖かい気持ちが得られる、好感度の高い作品です。