石川淳「マルスの歌」
あの歌が聞えて来ると、わたしは指先のいらだちを感じては原稿をびりびりと引き裂き、感情の整理を試みるが、結局は立ち上がって街頭の流行歌に向かってNO!とさけぶのだ。だが、道行く全ての人間が国威高揚の流行歌「マルス」をあきずに歌っているところをみると、これが世間にとっての正気なのだろう。すると私の正気とは、狂気のことであったのか?
- 作者: 石川淳
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 1991/07
- メディア: 文庫
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ところで、この作品は当時の日本軍部に、雑誌(「文學界」)もろとも発禁処分を受けた作品です。その雑誌の編集を担当していた河上徹太郎と小林秀雄はそれぞれ30円と50円の罰金刑を食らい、2人ともそんな大金は持っていなかったので菊池寛に払ってもらったらしい(河上徹太郎「蓮根論争」より)。