深沢七郎「楢山節考」
おりんはこの冬に楢山に行くことを決めているのである。その山はとても遠くにあるのである。村は食料が乏しいために、家族が多いと冬を越せないのである。でもまだ秋である。この年になっても元気なおりんは、自分の年寄りらしくない姿が恥ずかしかったのである。おりんは自分を年寄りらしく見せるために、家族のことを思いながら、いつもどおりに働くのである。
- 作者: 深沢七郎
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1964/08/03
- メディア: 文庫
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おりんは、老人を山に捨てるという、村の慣習に喜んで従います。それを拒否して生きようとする現代風の人に対しては、「馬鹿な奴だ!」と言いきります。外野からは理解出来ませんが、おりんの目に曇りはありません。それは慣習に従うこととは、「村」に対する感謝の気持ちだからでしょう。すなわち「村」=「神」。このいわば信仰の結果はトリアー監督の映画「奇跡の海」と似たものを感じました。ただ、完結する映画とは違い、村の慣習はこれからも永遠に続いていくのですが・・・。
私が永年この審査に携わってきて、只一度、生原稿で読んで慄然たる思いのしたのは、深沢七郎氏の「楢山節考」に接した時のことである。(中略)忘れもしない或る深夜のこと、炬燵に足をつっこんで、そのあまり美しくない手の原稿を読み始めた。はじめのうちは、何だかたるい話の展開で、タカをくくって読んでいたのであるが、五枚読み十枚読むうちに只ならぬ予想がしてきた。そしてあの凄絶なクライマックスまで、息もつがせず読み終わると、文句なしに傑作を発見したという感動に打たれたのである。(三島由紀夫)
- 井伏鱒二「へんろう宿」
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