大江健三郎「運搬」
僕は仔牛の下半分を両腕にかかえあげ、すべり落ちようとする肉のぶよぶよとした感覚に汗ばみながら、どうにか自転車にくくりつけた。僕らの自転車は夜ふけの町を快い速さで進んだ。僕にとってこれは決して悪い仕事ではない。僕はすべてが快活な状態にあるのを感じ、傭主の声にこたえてたえず陽気に笑っていた。仕事はきわめて順調だった。しかし僕らの背後には――。
- 作者: 大江健三郎
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1974/05/28
- メディア: 文庫
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見えるはずのものが見えない「異常な正常」が「正常な異常」を取り戻すためには、いくつかの出来事が必要でした。そしてその先には、スピルバーグ監督の「激突」ばりに、スリリングな展開が待っています。
しかし挫折の最初のきざしは不意の発作のようにすばやく芽ぶき、たちまち逞しく根をはびこらせる。そしてそれを拒否することが絶望的に難しいこともあるのだ。