金達寿「富士のみえる村で」

 私たち朝鮮人は、被圧迫・差別に抵抗して生きている。いわゆる特殊部落民として生きてきた岩村市太郎もその点は同じである。彼に対する共感が、私たちの心には芽生えていた。ところが、今回の旅行は彼と私たちに、思いがけない悲劇をもたらしたのであった。鋭い心理描写から意外なラストに至るまで、充実した作品。

在日文学全集〈第1巻〉金達寿

在日文学全集〈第1巻〉金達寿

 興味深い問題が興味深く語られています。日本といえば差別がなく自由な国である・・・そういった気持ちを特に日本人は自分に対して抱いているように思いますが、その認識の誤りを、被差別側から指摘します。無意識で行われる差別は、それが根深いものであるために、簡単には修正がききません。幾人もの人物が静かな悲しみをたたえて動いており、決して素通りして出られない力を持った作品です。

 とにかく岩村市太郎は私たちに向かってたくさんの話したいことをもっている男であった。そしてそれらのことを「あなたたち」、つまり私たち朝鮮人「以外には誰にもいえ」なかったり、あるいはまた親しみなじむことができないというところに、彼の深い問題があった。――

 常に蔑視されているものは、また蔑視しようとしたがるものである
 そうしてこういうことをしたものは、真に蔑視さるべきである