安岡章太郎「ガラスの靴」

 待つことが僕の仕事だった――。夜番として雇われた僕は、戦う勇気も体力もないが、ただ待つことだけは出来るのだ。ある日、届け物をした家の先のメイドとしたしくなった。彼女は二十歳だったが、とても子供っぽいところのある人で、一日中かくれんぼをしていたりするのだ。そうして僕は彼女に惚れてしまい、彼女なしではいられなくなった。

ガラスの靴・悪い仲間 (講談社文芸文庫)

ガラスの靴・悪い仲間 (講談社文芸文庫)

 子供らしい言動をする悦子は、まるで魔性の魅力を持つかのように、主人公の心に巣食います。その様子、夏休みの思い出が、水玉が透けてみえるような瑞々しい文体で描かれた作品です。生活の軸にある不安という器が、カラッポになったり満たされたり。自分の憤りを相手にぶつけるところなど主人公の「青春」がうまく示されており、揺れやすい心が巧みに表現されています。