2004-05-29から1日間の記事一覧

大江健三郎「人間の羊」

バスの中。両隣の外国兵たちは酒に酔って笑いわめき、日本人乗客たちは眼をそむけていた。やはり酔っている女が、僕とからみあって転倒したとき、外国兵は女をたすけ起し、僕を強く睨んだ。肩を掴まれ突きとばされ、ガラス窓に頭をうちつけられた。外国兵は…

大江健三郎「他人の足」

この病棟で僕らはひそかに囁きあうとか、声をおし殺して笑うとかしながら、静かに暮らしていた。しかし、外部からその男が来てから、凡てが少しずつ執拗に変り始めたのだ。彼はすぐに運動をし始めた。寝椅子の少年たちに、あきらめず、愛想よく話しかけてい…

武田泰淳「ひかりごけ」

投げやりに眺めやったさきの一角でだけ見える「ひかりごけ」。これを見学した私たちは村へもどり、校長の話を聞きました。遭難しかけた話、登山の苦労、人肉を食べた男の話・・・人肉を食べた?私の作家としての感覚が、この話に引き寄せられたのを感じました…

佐木隆三「ジャンケンポン協定」

労使の妥協案として実施される「ジャンケンポン協定」。初の紳士協定といわれるそれは、ジャンケンに勝った方が会社に残り、負けた方がリストラされるというものである。・・・最後尾についた彼の計算によれば、出番までには三時間半ほどある。列のあちこち…