梅崎春生「侵入者」

 玄関扉をあけたとたん、見知らぬ男たちがずかずかと上がってきた。1人が言った、「大丈夫ですよ、この家には写真をとられる義務があります」。・・・義務?この家はむろん彼のものだ。けれども、彼は所有を示す方法を知らない。男たちは三脚を準備しはじめ、家の主人のはずの彼は、邪魔してすいませんと、部屋の隅においやられてしまう。憤りを感じながらも、どうも彼らのいうことが正しいような気も・・・。


 管理が甘く、所有権がグダグダ。そのとき、正当な権利を持つ人間が、論理をもって主張することで、正しい秩序は回復するはずです。けれども、その正攻法が誰に対しても必ず通じるとは限りません。語りはユーモラスなのですが、中身は現代日本が抱える外交問題とクロスする部分を感じました。

 (つまりおれがまごまごと押し戻されてしまうのは――)(略)(つまりこちらがはっきりしていないためだ。この家がはっきりと自分のものであるという自覚、そいつがこの俺にないためだ)