坂口安吾「花妖」
「孤独が心地いい」とうそぶき、終戦後も防空壕に起居する父、その父を軽蔑する母。開放的な遊び人の次女、前時代的で暴力的な男であるその夫。そして狂気的情熱を持った長女・雪子。終戦後の変化について行く者と行けない者が混ざり合った物憂げな一家が過ごす日々。世界を満たすために、未練を断ち切って全的に行われるイノチガケの行為の数々。
- 作者: 坂口安吾
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 1998/06/01
- メディア: 単行本
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社会的無関心がマナーになる一方であちこちから「権利」が叫ばれるという、可笑しな現代日本に住む者として、100%の全力で行われる純真な行為は、とても新鮮なものに写りました。
佐々木 おもしろいですよ。書きながら考えているようなところがありまして、本当に計画して書いてないんだよ。
奥野 どこに行くかわからない。
佐々木 人物がどうなるかわからない。そこがおもしろい。途中でがらっと変わったりして。
奥野 そこに岡本太郎がさし絵にならないさし絵を描いているから、ますます何が何だかわからなかったのですよ。
(佐々木基一&野坂昭如&奥野健男の座談会より。「文芸読本 坂口安吾」所収)
「それが人の悲しさですわ。きっと、そうよ。おばさま。親しい者は愛し合うか憎み合うものですもの。親しさ故にですわ。その愛も憎しみも、銘々が銘々だけで処理する以外に仕方がない定めなのでしょう。親しい者は、いつも二人だけ取り残されているのだわ。あらゆる親しい人々が常に取り残されるにきまっています。だれにも見せないほんとの日記をしるすために。だから人は苦しむのです。親しむ者によって苦しむのですわ。」