2004-04-05から1日間の記事一覧

三島由紀夫「百万円煎餅」

おばさんとの約束にはもう少し時間がある。健造と清子はデパートに入った。ずっと質素に暮らしてきた彼ら夫婦は、あらゆることに慎重だった。しっかりと貯金し、計画を立てて将来を見据えていた。そのとき、オモチャの空飛ぶ円盤が宙を飛び、「百万円煎餅」…

掘田善衛「曇り日」

おれの心が屈していたのには2つの理由がある。1つめは、黒い男が雨の中を逃げまくり、白い兵隊と黄色い警官が、その姿を追って、なぶりものにしたのを見たからだ。もう1つは、Qと出会ってしまったせいだ。おれはあのQのことが――やはり、はっきりとその名…

原民喜「夏の花」

突然の一撃により目の前に暗闇が滑り落ち、私はうわあと叫びながらトイレを出た。原爆が投下され、私が逃げた先で見たものは、血だらけの女、転覆した列車、川を流れる少女、魂の抜けた婦人・・・顔がくちゃくちゃに腫れ上がって、爛れ、虫の息で横たわって…

坂口安吾「散る日本」

私は将棋の名人戦を観戦に出かけた。10年間名人を守ってきた木村名人が2勝3敗と追い込まれた、将棋名人戦第6局。私は将棋の駒の動かし方など、さっぱり分からない。けれども、これを見るのは念願であった。命を懸けた真剣の戦いが期待されたからだ。空気は張…