安倍公房「赤い繭」

 おれには家がない。おれには休む場所がない。道に落ちている縄の切端が語りかけてくる。兄弟、休もうよ。おれは首をくくりたくなった。だが、まだ休めないんだよ。おれには家がない、その理由がわからないからだ――。この世はこれだけ広いのに、おれの家はどこにもなく、おれだけのものは何一つない。休む場所が見つからないならば、自分で繭を作ってしまえ。

 3分もあれば読める掌編ですが、得られる徒労感は大きなもの。
 疲れきった人生を生きる主人公。寝場所を見失った彼は、自分の居場所も失いました。家を求めない人間になりきるか?家を自分で作るのか?
 前者になれるほどの強さを持たない人間は、自分の存在で自分を守り、そして、他者の懐から生きていくことになるようです。